池上彰のやさしい経済学 Chapter1

経済の語源は「経世済民

「経済」という言葉は、明治以降に日本で生まれた言葉。明治維新で日本が鎖国を解くと、海外からいろいろな言葉が入ってきて、その中に「economy」という言葉があった。この「economy」をどう訳す際に中国語の「経世済民」を参考にして「経済」と名付けた。ちなみに、「経世」は「世を治める」、「済民」は「民を救う」という意味である。

経済「学」とは何か?

経済学とは「資源の最適配分」を考える学問である。
例えば、石油や鉄鉱石などの天然資源は地球上に限られた量しか存在しない。その限られた資源をどのように有効に使えば、私たちの暮らしが良くなるのかを考えるのが経済学である。

社会主義経済はうまくいかなかった

一昔前は社会主義の「マルクス経済学」とそれに対抗する「近代経済学」が存在した。その頃は、世界には社会主義諸国がたくさんあって、マルクス経済学は非常に有用な学問であると考えられていた。これら社会主義諸国では国が資源の最適配分の計画を立てて遂行するという方法をとっていた。しかし、結局この方法はうまくいかず、社会主義経済の国々は崩壊していていた。資源の最適配分は、市場=マーケットで、みんなが自由に物を交換するというやり方でやったほうが上手くいくということがわかった。

マクロ経済学ミクロ経済学

現在、近代経済学は「マクロ経済学」と「ミクロ経済学」という2つの分け方で考えるようになっている。マクロ経済学というのは、例えば日本の景気が悪い時に政府はどんな対策を取ればいいのだろうかという、大きな経済のメカニズムを考える学問である。一方、ミクロ経済学というのは、私たち消費者やそれぞれの家計がどんな消費行動をとるのか、またそれぞれの企業が限られた資源をどのように有効に使い、どのような商品をどう売っていくのかという細かいメカニズムを分析する学問である。

「イチバ」と「シジョウ」の違い

実際に現物が目の前にあって、それを売り買いする、これが市場(イチバ)。それに対して市場(シジョウ)というのは、誰が売ろうとしているのか、誰が買おうとしているのかが見えない。コンピュータ画面上でのバーチャルな物を市場(シジョウ)という。

物の値段は需要と供給によって合理的に決まる

縦軸に価格、横軸に数量を取った時、需要曲線は右肩下がりの曲線になる。これは、消費者が価格が上がれば買おうとしなくなり、価格が下がれば買おうとするからである。一方で、供給曲線は左肩下がりの曲線になる。これは、供給者が高い価格で売れるならもっと作ろうと考え、低い価格でしか売れないなら作る意味がないというように考えるからである。この需要曲線と供給曲線の交点で物の値段が決まる。

人はいつも合理的に行動するわけではないー行動経済学の出現

経済学では、人は合理的に行動するのだということを前提に理論を組み立てている。そうでないと議論にならないからである。同じ品質で高い商品と安い商品があれば安い方を買う。そういう人間のモデルのことを「合理的経済人」と呼ぶ。ところが人間は合理的に行動しないことがある。例えば、3000円と5000円の商品を一緒に売ると3000円の商品はたくさん売れるが、5000円の商品はあまり売れない。ところが、この2つの商品に加えて1万円の商品を横に並べて売ると、5000円の商品が売れるようになる。合理的に考えれば、横に1万円の商品があろうがあるまいが5000円の商品の売れ行きは変わらないはずである。経済学というのは、人間は皆合理的に行動するということを前提にしてきたが、人間の心理を考慮しながら経済学を組み立てたほうがいいのではないかという考え方が出てきた。このような経済学のことを「行動経済学」という。

景気の「気」は気分の「気」

例えば、日経平均株価が大きく上がったことを受けて、これは景気が良くなるかもしれないという気分になる。それで今日は奮発して飲みにいくかとなったりすると消費がちょっと伸びる。反対に日経平均株価が下がったことによって、景気が悪くなるかもしれないと感じて財布の紐を閉じると消費が落ち込んでしまう。このように景気というのは「気分」に左右されるというところがある。

景気動向指数のいろいろ

その景気を定量的に見る指標として「景気動向指数」というものがある。景気動向指数には「先行指数」、「一致指数」、「遅行指数」の3つの系列がある。先行指数は、これが上向いてくると景気が良くなるんじゃないかという、景気に先立って見えてくるものである。例えば、新規求人数が先行指数である。新しく人を採用するということは企業が事業を拡大するということなので、これから景気が良くなっていくのかなということがある程度わかる(企業が事業を拡大するということはそれに見合う需要が存在する≒需要が拡大しているということ?)。一致指数は、景気の動向と時間的に一致しているものである。例えば、大口電力使用量。工場が生産を増やせばその分大口電力使用量が増える。他にも商業販売額。景気がいいとデパートの売り上げも増える。遅行指数というのは、景気の動きにちょっと遅れて反応する指標。例えば「家計消費支出」。給料が下がったからといっていきなり家計の支出を減らすことは難しい。そして完全失業率。景気が良くなって働き口が見つかると仕事が見つかって完全失業率が低くなる(新規求人とそんなにラグある?)。

GDPとは?

景気の動向を見るもう一つの指標として「経済成長率」がある。経済成長率とはGDP(Gross Domestic Product: 国内総生産)の伸び率のことである。昔はGDPではなくGNP(Gross National Product: 国民総生産)が使われていた。しかし、国内企業が海外に工場などを立てた時に、外国人の生産が日本国内の生産として計算されてしまう。これはおかしい。一方で、海外の企業が日本に進出してきて、そこで日本人が雇われたらそれは日本人の生産である。こうして、GDPの伸び率が経済成長率を測る指標として採用された。

付加価値の合計額がGDP

GDPは付加価値の合計額として算出される。例えば、製鉄所が鉄を作る材料を60万で仕入れて自動車用の鉄に加工して100万で売ったとする。その時、差分の40万円分が付加価値になる。

金は天下の回り物

商品を買うということは、企業に投票するという投票行動でもある。良い商品を選択すればそいうい物を生産している企業は生き残るし、粗悪な物を生産している企業は廃れる。